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Creative Café 伝わらないデザイン --自分のデザインフィールドを発見しよう--

2012.06.21

クリエィティブカフェ「伝わらないデザイン~自分のデザインフィールドを発見しよう~」は、Creative Café [デザイナーシリーズ]として、株式会社コンセントの川崎紀弘さんをお迎えして、プレゼンテーションとワークショップの2本立てで行いました。具体的な写真や動画を交えながら、「物の見方・捉え方」にまで入り込んだ、非常に興味深いお話をしてくださいました。

野原
みなさんこんにちは。東工大の野原です。今日のテーマは「伝わらないデザイン」ということですが、私達が常に考えていることの一つに、「研究や自分たちが持っているものをどう見せるか」があります。デザインは固定された概念ではなく、狭義の意味と広義の意味があるわけですが、今日のCaféを通して、両方の「デザイン」に目を向けていければと思っています。

川崎
今日のタイトルですが、「伝わらないデザイン、自分のデザインフィールドを発見しよう」というものです。私達は、どんなことをやっていても、デザインに関わらないことはない。逆に言えば、どんな人でも何かしらデザインをします。しかし、デザインという話が広い範囲で行われているから、「私はどうすれば良いか?」がよくわからない人が実は多い。そこが混乱しているから、なかなかうまく伝わらないデザインをしてしまう。今日のCaféでは、「身の丈にあったデザイン」をしていく中で何か新しいものを発見してもらえたら嬉しいです。

伝わる・伝わらない

今日扱うデザインの領域は芸術、意匠(表層的なデザイン、コスメティックなもの)、設計、構想(グランドデザイン)でまとめられると思います。では、タイトルの「伝わらないデザイン」ですが、まず「『伝わらない』ってなんだろう」というと主に2種類あります。1つは「デザインされたものがデザイナーに伝わらない」、もう1つは「『デザインする』ということが伝わらない」です。「デザインする」ということが自分も相手もわかっていないから、そこで伝わっていない。

いくつか例を出しますが、よくあるのが自動券売機の「テプラ地獄」です。「Suicaも使えます」「500円玉は1枚のみです」「つり銭忘れるな」など...プロダクトデザインで作ったものを設置した際に、ユーザー層が広いと機能が伝わらない例です。これは「User-Interface」の問題でもあります。
次の例が駅にある次世代自販機。せっかくシンプルな型なのに、自販機の使い方を書いている。わざわざ書かないといけないわけです。
デザインとかエンジニアリングを極めていくと、本人達はどんどん頭が良くなっていく感が出てきます。そうなると、プロダクトの機能が興味のない人たちにとって通じなくなっていく。これはリテラシーの差と言えるかもしれません。
(当日は他に、アメリカ軍の「アフガニスタン軍事戦略」の複雑さを示したパワーポイントの図や、iPodのパッケージデザインの動画の解説をしていただきました。)

今日のテーマ

これらを踏まえると、今日の本題は2つに集約されます。「伝わらない理由」と「それに伴って伝わらなくなる実態」です。
まず「デザイナーに伝わる」とはどういうことか。それがコミュニケーションの問題だけだったら、どうにか解決しているはずです。だが、それだけではないのではないか?
実は「デザインすること」が相手に伝わっていないんです。だから、自分の持っているデザインを領域で考えて、自分のデザイン領域をどこまで拡張するかを考えていかなければならない。
そこで今日のCaféの目的は、「無理をしないデザインシンキング」です。実はみな、デザインをするときに「かっこよくやらなきゃ...」といって無理をしてしまっている。そこで、デザインを「機能美」という視点から始めてみましょう。飾り立てる必要はなくて、伝えるべき情報を機能に沿ってしっかり置けば、自然とデザインされます。ノンデザイナーは、この「機能美」としての美しさを備えたデザインをすることは可能です。つまり、自分の立ち位置に合ったデザインをすることが「機能美」につながります。
ここで、「デザインが伝わらない」ことも、本当にコミュニケーションの問題なのでしょうか?実はそれだけではないと私は思います。「物事がどう見えるか?」という部分が重要になってくるのではないでしょうか。例えば、ある物を見た時に、ある人にはこの視点から見えるのに対し、別の人は別の視点から見える。こういう人たち同士が話をしていて、本当に話は通じるのでしょうか?

Workshop 1

kawasaki_cafe_02.pngでは今から1枚の写真を配ります。あまり考えすぎなくていいので、この写真を見た時に自分が何をどう捉えるかを言語化して書き込んでください(写真を表示)。

その後、各グループで見せ合って、違いを見つけてください。時間がきたら、グループごとに簡単にまとめて発表してください。

Aグループ
物に注目している人、全体の雰囲気に注目している人がいました。

川崎
こう見えると、「そりゃあ話が合わないよ」って気がしませんか?
例えば、「あ、マックだ!これは、電源が何時間くらい持つはずだ」と考える人と、「光がフワッと明るい」という人の間で話が通じるわけがありません。逆にこうやって考えを書き出すことで、「この人はこういう考え方をするから、こういうアプローチがいい」という方向へ持っていけます。

Bグループ
モノ、朝という時間帯、雰囲気の色合い(全体的な物の中にワンポイント)がありました。

川崎
配置としてそこに置かれている。それがみんな違うわけですね。

お互いが「こういう見え方・考え方をする人」ということがわかったうえでトークをすれば、コミュニケーションがとれるかもしれない。デザイナーとデザイナーじゃない人の視点も違う。この人達の話が合わないというのは、こういった見え方の違いが大きい。これを認識しておく必要があります。このような複数の視点を持つことは、自分で鍛えられるかもしれません。

Creativeはどう生成されるか?

実はデザイナー自身も、頭のなかはブラックボックスなので、よくわかっていません。ただ、流行や興味が頭のなかに整理されず入っていて、そういったものを歩きながら常に拾っている。その結果として、いまの世の中の状況がぼんやりと頭のなかに入っているのかもしれない。そこに課題を入れてアイディアや創作物ができる。これが本来のデザインシンキングです。デザインシンキングは一般的に「トライアウト(失敗を繰り返して良いものを創り出す)」のサイクルを回すものと考えられていますが、デザイナーのように、頭の中がごちゃごちゃしている中で考えることで発想がジャンプする。このジャンプ力やジャンプ率といったものが重要なのではないかと、私は考えています。これができる人(芸術家など)のメリットは、問題解決をショートカットできることです。ショートカットということは、途中の過程がないわけで、途中がないから、理系の人とは折が合わなくなる。しかし、私達も物(情報)の見方を明確にすると、こういうことが起きるかもしれません。
そして私から見て、デザイナーはどこを常に鍛えているかというと「ブレを調整する」というところです。これは「偏見によるブレ」と「パーソナリティによるブレ」と2つあります。例えば「インド人」という言葉を聞くと、大多数の人は「カレーを作るインド人」を思い浮かべるかもしれません。しかし、その言葉を言った本人は、実は「ITに強いインド人」を言いたかったのかもしれない。デザイナーはこういった偏見によるブレをなくして、アウトプットをしっかり平等にする。そうすることでオーダーに対する回答が面白くなっていきます。逆に、パーソナリティのブレに関しては、基本良いことです。おそらくこれが、本来のクリエィティブにつながる。アイディアを出すことが求められている人は、こういう能力を持っていると面白い。

デザインを「領域」で考える (Workshop 2)

ここには、理論的に考える人もいるし、抽象的に考える人もいる...では「どの領域でデザインをしていくか」について考えてみましょう。ここで1枚の紙があるので、それを見てください(紙を表示)。みなさんは大きな意味で「デザイナー」なので、この紙のどこかにいます。今の自分の位置(現在のデザインフィールド)と、自分がこれからこういう風になりたいと思うところ(どの領域まで拡げるか)を丸く囲んだり、理想や目標を記入してみてください。全体を考える時に、こういう表があるといいですよね。

川崎
じゃあY君、君はいまどこにいる?

Y
現在は右側にいます。だからもう少し左側へ行きたいです。

E
私はイノベーションマネジメント研究科に所属していて、どのようなイノベーションを起こしていくかを考えています。だから、現在の自分の位置をもっと両側に拡げていきたいです。

川崎
ありがとう。何が言いたいかというと...何か問題があった時に、それを解決しようとして、場所を分けてデザインをしようとしてしまう。だが実際に、デザインは地続きになっている。だからまずは、自分のいるところの隣のデザインを考えていくことが重要になってきます。そのときに、「自分の分に相応するデザインの領域はどこか」を考えることが大切です。

Workshop 3

では、最後に某燃料会社の広告をリデザインしてみましょう。どこを切って、どこを大きくするべきか、レイアウトしてみてください。元の資料にコメントを書き込んでもいいし、新しい紙に書いてもらっても構いません。順番としては、
1. 機能美としてのデザインを考える。(美的に考えると失敗する)
2. 優先順位をしっかり決める。
3. 文字の大きさと行間で階層を考える。
4. いらないものをとる。省いてみる。→そのページをシンプルにしていく。
これが実は、「機能美」でデザインをするということです。また各グループで議論してもらって、簡単にまとめてもらえればと思います。

Cグループ
何を言いたいのか...環境性、安全性、快適な暮らしという3つのキーワードがあって、そこに細々したところが必要かどうかを考える必要があります。

川崎
先ほどのiPodと一緒で、盛りだくさんになってしまっていますね。「本来、伝えるべきところはどこだっけ?」と考えて、色々省くことが良い。

Dグループ
文字がごちゃごちゃなので、この広告をパッと見た時に目に入る画像や絵でもっと表すべきです。具体的に視覚化したほうがプレゼンされている内容がわかる。

川崎
ビジュアルだと、不確定な部分もあるけれど、大量の情報を一瞬に、そして大量に送れますね。

「階層化」するなかで、どれを採用するかに「ずれ」が生じる。そこで、言いたい人(発信者)と言わせる人(広告作成者)で納得できるコミュニケーションが重要になっている。余計なことはせず、内容として素直に実現する(階層化)ときれいなデザインになっていきます。

今日のメッセージ
「伝わらない理由」を理解しよう。
・コミュニケーション・ギャップ、人によって見え方や捉え方が違うことなど。
・デザインに対する理解が足りないのでは?

自分のデザインフィールドを知ろう。
・いま自分がいるデザインフィールドに少しだけプラスをして、フィールドをさらに拡げていくと、良いプレゼンテーションができる。

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