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Creative Café 写真というブラックボックス --よい写真とは-- 1/3pict

2012.02.10

2011年4月にガーディアン・ガーデン主催の「1-WALL 展」でグランプリを取得された畑直幸氏とCreativeFlow とのコラボレーションイベントを、ガーディアン・ガーデンでの個展期間中に開催しました。
畑氏はグランプリ獲得後オランダで写真の勉強をされていますが、個展で展示された作品は、オランダに渡る前に東京工業大学の研究室で撮影されたものです。

●写真というブラックボックス

山崎:司会の山崎です、よろしくお願いします。本日は「写真というブラックボックス」と題してCaféを行いますが、このタイトルには、よい写真とは何かということを考えた時に、そのよさと言うものはブラックボックスのように「これだ」という明確な答えが見つからない事を踏まえて名付けました。このブラックボックスの部分に私達の持つ科学的な視点を取り入れた時、一体どんな発見があるのか、みなさんと一緒に体験できたら、と思います。
 本日のゲストは、写真家と東工大の先生という一見異なる分野のお二人ですが、まず初めに出会ったきっかけや本日のイベントを開催した経緯について教えていただけますか?

●イベントのきっかけ

:今回のきっかけになったのは、私がまだ東京で美容師をしているときに、野原先生がお客様としていらしたのがきっかけです。その会話の中で、先生の専門である翻訳を通じて、サイエンスを世の中の人に広げ、そこから派生してサイエンスとアートを融合させるといった考え方が、本当に面白いなと思いました。

野原:東工大の野原です。東工大は科学・工業系の大学なのですが、私自身の研究は所謂文系の言語学・翻訳理論という分野です。英語から日本語に翻訳を行う言語間の翻訳だけでなく、科学技術を他の媒体、例えば写真であったり絵画であったり、違う媒体に翻訳するというようなメディア翻訳のようなことも扱っています。そんなところから、科学にも非常に興味があり、たまたま髪を切っていた畑さんとだんだん話が盛り上がっていき本日のイベントに繋がったという訳です。

山崎:この会場には実際に東工大の中で撮影された写真が展示してありますが、その撮影時の様子などを教えていただけますか?

野原:私自身の研究室には畑さんから撮影の依頼があってから、同僚の先生たちにお願いして、畑さんを連れて研究室めぐりをしました。メールでの事前の問い合わせの段階から、みなさんもろ手を挙げて「来てください」とおっしゃってくださいました。撮影当日研究室に伺うと、写真をとるだけじゃなくて、皆さん詳しく研究の説明をしてくださいました。(笑)

:大体ひとり1時間くらい。(笑)僕はとにかく写真を撮りたいんですけれど「まぁちょっとだけ座って」説明をするからと。

野原:研究室をめぐるうちに私達もだんだん慣れてきて、これは誰かが防波堤になった方がいいかという場合には学生が先生方と話し、そのスキに畑さんが写真をとったりもしました。でも畑さんけっこう話の内容、覚えているんですよ。後から彼らの研究についていろんなこと言うんです。

山崎:このような科学的な写真を撮るときは、整頓して綺麗にするのが普通だと思いますが、散らかっていたり、あまり掃除がされていないものの写真ばかりですね。一般的に実験室の写真を撮るときは、有名な装置や機器を撮ることが多いと思いますが、被写体は何だかよくわからないものが多くて、写っているのはコードとかパイプの写真ばかりですね。
実際に研究室で撮影して、撮影前後で印象が変わったりしましたか?

:うまく言葉にできないけど、とにかく汚くてかっこいいなーって。(笑)
撮影する時は、あまり片付けないでくださいともお願いしました。研究室で説明してくれる教授が「装置のここが大事」と指している中、僕は「そうですか」と相槌打ちながら別のところをずっと見ていたから、説明している方には全然話しを聞いていないような印象を与えてしまったかも。

●広義の科学

山崎:それではカフェを始めていきたいと思います。まず科学的な視点を写真というブラックボックスに取り入れると言いましたが、まずこの科学について少し説明をさせていただきます。

陳:東工大、博士過程2年の陳です。私たち人間は論理的に物事を考える能力を持っていますが、これだけではなく想像力など様々な能力も同時に持ちあわせています。これらの能力を上手に相互作用させると、私たち人間には科学的思考が生まれると考えられます。この科学的思考を、さらに整理しようと思うとき、数理的に処理する人もいれば、言語的に整理する人もいると思いますが、いずれも「広義の科学」であると我々は考えています。

山崎:一般的に科学と言うと、数値や数式を用いて数理的に物事を処理することと捉えられがちですが、本日我々が扱う科学はもっと広い意味をもった科学であるということを、まず初めに念頭においていただきたいと思います。
それでは写真を科学的に見る方法について説明させていただきます。

●よい写真の要素

寺中:東工大2年の寺中です。私たちがよい写真と思うものを数理的に分析するときに使用できる情報を、一部ではありますがご紹介させていただきます。常識的なことであったり、「そんなことはない」と思われることがあるかもしれませんが、ベースとなる考えとして共有させていただきたいと思います。
まず写真の構図に関して黄金比についてです。ご存知の方も多いと思いますが、黄金比とは「1:2分の1足すルート5」で表せる比率で、整数では約5:8の比率のことを指します。(以下写真の構図に関する説明)
・三角構図
・逆三角構図
・日の丸構図
・シンメトリー
・対角線構図
・三分割構図
・黄金分割構図

寺中:構図の他には、色の調和にも興味深いムーン・スペンサーの色彩調和理論というものがあります。この理論はカラーコーディネートやデザインの現場で、必要に適した色彩理論として広く支持されており、色相差・明度差・彩度差といった数理的な観点から解析・点数付けして、調和がとれているか評価するものです。
ここまでは、よい写真にあてはまる要素について見てきましたが、これらのルールに当てはまるけれどよくない写真、またよい写真だけれどルールに当てはまらないものももちろんあります。
ここで都市景観例に考えてみると、一般に、美しい都市はデザイン的に優れた建築物が集まった都市というより、周囲と調和した建築物が集まった都市というほうが適切だとおもいます。周囲と調和するためには、建築物の形状を揃えたり、色の彩度を一定の範囲に収めたりすれば良いと思われますが、こちらの写真の街並みは美しいでしょうか?(参考写真提示)
美しい都市の共通な部分を抜き出し、条件を満たしていても、一定のルールで「よい」というものを説明することは、非常に難しいということがこれまでの話から見えてきたと思います。

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