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Creative Café アーキテクチャシリーズ 第1回 汚しうる美 stainable beauty 2/2

2010.09.29

田中稔郎
京都大学工学部土木工学科在学中からアジア、アフリカの発展途上国を中心に20カ国以上を旅する。ゼネコンに就職後、ニューヨーク州立大学へ留学し、建築を学び、グリッドフレームという建築のシステム材を考案。1998年6月にグリッドフレームを設立。研究途中のシステム材で家具や衝立をつくって販売しながら、次第に独自の方法により店舗などの空間全体をつくる会社に成長する。現在までに、250件以上の設計施工実績がある。

グリッドフレーム、完成させない格子
4707496777_477348d9fb_b.jpg田中:そこから、グリッドなフレームという考えがでてきます。たしかに無秩序の混沌が目の前にばーっと広がってしまうと、容認できません。で、それを弱めるためと言うか、それを直視することができるようにするための術として「格子」=グリッドという秩序をかぶせる。格子をかぶせることによって、「汚しうる美」と言えるような表面ができるのではないか。私はそのような格子のシステムパーツをつくって、あらゆる空間をつくっていこう、と会社を興したのです。
津田:それは商品として成立するのですか?
田中:はい。しかし、元々、混沌と向き合うためのパーツですから。混沌にわざわざ向かい合いたいという人はなかなかいません。商品を売るためには、そのようなコンセプトを潜ませつつ、使い勝手やわかりやすいデザインの良さで売っていくことになります。グリッドフレームというのは、無秩序なものだけでなく、中へはなんでも入れていいようにするための格子なので汎用性がありました。しかし、次第に、店舗空間全体などの複雑な造作に対応するようになってくると、システムパーツだけでは対応できなくなってきました。
そこで、グリッドフレームの重要なコンセプトを抽出して、システムパーツを使わない制作にシフトすることになりました。いまや、グリッドフレームは、コンセプトです。
その重要なコンセプトとは、「なる」ということです。どうすれば、「汚しうる美」のように自然が作用して「なる」ものを、本来「する」行為である「つくる」の中で実現することができるのか。
この問いに対する私たちなりの答えが、現在の制作プロセスに表れています。

私たちは、明確なゴールを設定しない。ある意味完成させないです。弊社は設計施工ですから、施工する人員も抱えているんですけど工場がありまして、そこで店舗の内装に関するいろんな物を作っていきます。
設計図としては、パースと平面図を提出するんですが、そのパースにはディテールは描かない。そこには空気感と言うか、そういうものだけを表現する。ディテールに関しては、4人アーティストがいるんです。クライアントにパースを見せるときには、「こういう雰囲気のものになりますが、最終的に何ができあがるかは誰も知りません」と、「それが私たちのやり方で、だからこそいいものができると思っています」っていう話をさせていただいています。本当に、信頼関係をベースとしてやらせていただいてますね。だから、できあがりを見に行くと、私たち自身にも「おおっ、こうなったか」という驚きがあります(笑)。
stainable3.jpg設計者としてアーティストたちに空気感を伝達するには、パースと、ひとつのフレーズを用意します。これはアパレルのショールームですね。ショールームで、この鉄板のうねりの向こうには社長室があり日々バッグのデザインをされています。ここのフレーズは、「創造力はケージからステージにつらぬく閃光である」。次は接骨院、こちらのフレーズが「骨と筋肉がなす構成美」という(笑)。
基本的にできあがったお店っていうのは、そのあと、どんどん、できればオーナーさんの好みでつくり変えていっていただきたいというふうな希望を持っています。どんどん、その場合その場合に合わせてつくり変えていっていただきたいなと。それを、私たちの中では「ものづくりの連鎖」というふうに呼んでいます。
現在つくっているものの中に、混沌と向き合える空間、という当初の目的が達成されているのか、みなさんはどう感じられるでしょうか。

クリエイティブ・サルベージの実践
4708140766_dc97205ae1_b.jpg:ぼくは、バルセロナの集合住宅とか、スクラップの山とか、面白いと思って魅力を感じるんですけど、それは無名の、そして複数の人の意思とか歴史からできている。それが面白い、かつ怖い。でも、そういうものが、グリッドフレームさんの、全てを一人で設計しないでアーティストに委ねるとか、ゴールを設定しないとか、そういうスタンスに生きているのかなと思いました。
:私は、全体に流れるトーンの中で、自分と同じことを考えている部分がたくさんあるように思いました。私は、テレビ番組を作っているんですけれども、「ゴミの山は宝の山」っていうシリーズを5本ぐらいやったことがあるんですね(笑)。そのときに何を考えたかっていうと、ゴミという物ではなくて、「物を物として見る」ということを始めないと何も始まらないなというふうに思いますね。そういうふうに考えて、「ゴミという物はないと、物はあるんだ」というふうに考えました。
:廃墟って言われる所っていうのは、元はすごい栄えていた、たとえば大きいホテルであるとか、鉱山であるとか、そういう物が使われなくなって、そこが、たとえば草が生えたり、いろんな風化がおきて、また新しい価値が見出せる。崩れたときに新しい価値がもう1回できるというか。そこで、あらためて見えました。
津田:「クリエイティブ・サルベージ」っていう考え方があります。それは「創造的廃品回収」と訳されていますけれども、廃品を創造的に作りかえるという考え。田中さんの考え方は、「クリエイティブ・サルベージ」をすでに実践=商品として行われています。それは混沌をたんに排除するのではなく、受け入れる果敢な現代の挑戦ではないでしょうか。

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