Creative Café アーキテクチャシリーズ 第3回 モノがたりを装う~ファッションとアーキテクチャ~ 1/3pict
2010.10.02
野原:今日はこんなにたくさんお越しいただきまして、ありがとうございます。満員御礼を超えてますね。東工大では、「Creative Flow」というタイトルを付けまして、いろいろな活動をさせていただいています。サイエンスやテクノロジー、科学技術の側に普段はいることが多いわけですけれども、サイエンスだけでは世の中っていうのは成り立っていかないです。サイエンスを突き詰めて考えていくと、非常にアート的な要素が見えてくる。また逆もある。そういうことを私たちはこれを、この活動を通して、少しずつ経験と考えを積み重ねていっています。
●ファッションとは何か?
深町:よろしくお願いいたします。私の両親はかつてファッション関係の仕事に従事しおりまして、私が物心ついたときには、糸や布、ミシン、そしてたくさんの服に囲まれていました。中・高校生のときから、『マリ・クレール』だとか『ヴォーグ』だとか、そういうファッション雑誌を自分で買ってみていました。私にとってファッションは不可避なものだったようです。
今回はクリエイティヴフローにおけるコンセプトベースとなるサイエンスとアートに対してファッションがどのような関係を持つか考えたいと思います。そこで本日は、シリーズテーマである「アーキテクチャ」を「社会設計」として捉えていきます。お話を進める前に、ファッションとは一体なんなのか。ちょっと考えてみたいと思います。皆さんがファッションという言葉からイメージするものには、どんなものがありますか?
A:パリコレとか。
B:パリとか。
C:布。
D:靴とか、布。
E:ライフスタイル。
G:流行。
H:装い。
深町:ライフスタイル。最近の総合商社ではファッション部とか繊維部が産業環境の変化に伴いライフスタイル(生活産業)部門に吸収さています。「ファッション」というものを生活全般のなかに位置付けているといえます。
ここで、ファッションという言葉をあらためて考えたいと思います。fashion(流行、様式ほか)の語源はラテン語のfactioで、その意味は"つくること""形作ること"。ファッションとは本来、何かをつくるということを意味しているわけです。関係する語には,affect(感情、影響する)とかfact(現実・情報),faction(派閥・党派心)があります。
あるまとまった志向(⇔faction)を持つ人々の情感に影響する(⇔affect)情報を現実(⇔fact)に形作る(⇔fashion)・・・生活全般に関わる言葉といえるのではないでしょうか。
日本でファッションと言ったら、「流行のファッション」「定番のファッション」。ファッション自体が「流行」なのに「流行の流行?」とかっておかしくなってしまいます。 単にファッションと言った場合には、「服装とその周辺」というふうに考えていただきたいと思います。このほかmode(モード)という言葉が最近聞かれます。この語源はラテン語のmodus(尺度;方法)です。モードとはファッションに対してさらに広い範囲の流行を示していると考えてよいでしょう。
【*注:以下、ファッション=服とその周辺、流行、「ファッション」=「アーキテクチャ」「つくること」、fashion=ファッション+「ファッション」、というように言葉を使い分けます】
●fashionの表層と深層
深町:『東京ガールズコレクション』というイベントをご存知でしょうか?ファッションモデルだけでなく、話題のタレントなどが出てくるファッションイベントです。コレクションモデルではなく隣にいるような親近感のあるモデルが着るリアルクローズのイベントです。一見、服を売るためのイベントと思いますが、実際は携帯端末を利用したショッピングのスキームづくりがその主目的でした。ショーを見ながらその場で購入できるのです。服を売ることに加え、携帯端末で利益を得るシステム。主役となる産業が違います。
表層は服のイベントですが、深層では別の目的があります。出資元を見ると分かります。これはシステムを「つくること」=「ファッション」の例です。
fashionとは服をつくるだけではなく、その全体のスキームづくりといえます。そうすると、アーキテクチャ(社会設計)的な見方が成立します。
百貨店や量販店に出向いて購入するという流通モデルから、端末での購入する流通モデルに構造が変化していくわけです。さらにいえば、流通モデルが変わると服自体のデザインにも影響を与えます。
●メディアが作り出す生活産業の流行(ファッション)
fashionは、心理マーケティングとか、脳科学の研究と深く関わっています。産業界が脳科学に期待することは「いかにして利益を生む顧客を作り出すことができるか」でしょう。どうすれば自社の商品を買ってもらうことができるのか。市場をリサーチするとともに購買の心理的メカニズムを解明するのです。例えば、皆さんご存知のガンダム世代をつくること。一度気に入ったら、永遠にそれを買いつづけるガンダム世代のようなタイプの顧客を自社で持つことが理想のようです。
ところで、最近理科の実験室でおきている事故があるとのことなのですが、何かおわかりになりますか?
S:火がつけられないとか、そういう。
深町:はい。火の取り扱いですね。これは、子供達の家庭はIHヒーティングが増え、キッチンテーブルに紙をおいてスイッチ入れても炎はでない。ところが実験ではガスやアルコールランプを使います。不注意で燃えることもあるでしょう。
では、なぜIHヒーティングは流行ったのでしょうか?
M:エネルギー戦争。
N:火を使わないので、火事になるリスクが少ない。
P:掃除が便利。
T:エコロジー
深町:では、エネルギー効率として、ガスと電気、どちらがCO2の発生量が少ないのでしょう?
N:ぱっと見、ガスのほうがCO2出してると思うんですけど、でも実は、エネルギー効率的に考えると、IHのほうが、実は大変効率が悪いんですよね。
深町:はい。さすが(工学専攻)ですね。では、なぜ流行っているか。これはファッションに関わってきます。ものをつくるために、ものを売るために、とても重要なのがファッション性です。ファッションや流行をつくるシステムと考えてみましょう。どのように流行をつくるかが重要。 考慮に入れるのは、誰がIHヒーティングの購入を決定するかです。
O:女性。
深町:女性。家事を行うことの多い男性や年配の家庭もあるでしょうが、女性が多いでしょう。一般化して女性や奥様が好きなものはなんでしょうか?
O:ファッション。
深町:ファッション。(偏ったイメージともいえますが)具体的にIHが出始めたころ、奥様方に人気のあったグループやタレントって、どんな方々でしょう?
深町:そう、韓流スターが流行っていました。韓流映画『私の中の消しゴム』のなかで記憶がなくなってしまう彼女のために、火が危ないからIHヒーティングを入れるというシーンが入っています。すると、映画の歓客の中には「これだ!」「うちもこれにしなきゃ」と思う人もいるでしょう。情感を揺さぶられる状況の中で観た商品に対する共感・・・心理学における「吊り橋理論」や脳科学の応用を想起させます。男性にとっても女性にとっても購入動機の発動装置として雑誌やテレビに加え、映画は流行をつくる重要なメディアです。