Creative Café Vol.10 モノがたりを装う~ファッションとアーキテクチャ~ 参加者アンケートからのQ&A
2010.07.07
後半は時間が足りず、深町氏の結論を十分に引き出せないまま終わってしまった感がありました。あらためて深町氏から参加者に伝えたいことをまとめていただきました:
・ファッションと言えば人は服装やその周辺を思いつくが、それらが生み出してきた「ものごとを標準化と差別化」するダイナミクスがあり、その流れはさまざまな分野にもあてはまる。
・「ファッション=標準化と差別化という人間の心理的・基礎的欲求が生みだす社会的ダイナミズム、トレンド」と定義。
・サイエンス、アートは 成熟化した社会 (機能よりも情感優先)の中で「ARS(アルス→アート)」の原点に立ち返ることで、 新たな価値創造を行うことができる。その意味で、より明確な機能を持つ「デザイン」と「アート」は異なる。
・ファッションにおいて、この流れ(標準化と差別化の繰り返しによる経済促進)は、消費者でありかつ生産者である私たちにとって必要である。
参加者アンケートによるQと、深町氏によるA:
Q1:ファッション=標準化と差別化の社会的ダイナミクスという考え方を、各種デザイン業界に適用することの功罪についてもう一度聞きたいです。さらに深町氏自身は、そのファッション化をどのようにとらえているのでしょうか。
A1:ファッション産業の手法の応用は約90年前から適用されていることであり、リップマンやV.パッカードの著作の中にもさまざまな事例が出ています。そのことが一般に知られていないだけではないでしょうか。
その「功罪」はそれぞれの立場により変わってきますので断定することはできません、私たちは消費者であると同時に生産者でもあるわけですから。 各種産業のファッション化(標準化と差別化による社会的ダイナミックス)は 成熟化する社会の必然的方向であったのでしょう。農業への回帰やスローライフの提案はそのようなスピードを増すファッション化社会への反動とも考えられます。(ちなみに私も人間の原点を実感すべく農業をしております。)
Q2:私たちの服や家電製品の選択に、他者の意図がこれほど強く関わっているとは思いもしませんでした。他にも商業界から仕掛けられている具体的な話があったら聞かせてください。
A2:ダニエル・ピンクも著作(『ハイ・コンセプト』)の中で述べていますが、 世の中にデザインされていないモノ(やサービス)がないとするならば、すべてに他者の意図が入っているといえるでしょう。ただ、受け取り方は個人個人で違いがありますので、他者の意図(デザイン・PR戦略の意図)に気づかず自分の意志であると考える人も多いでしょう。選挙においてもこのようなPR戦略が応用されていることは周知されています。
このような「仕掛け」についてのリテラシーは、たとえば芸術作品の鑑賞により鍛えられると考えています。作品のテクストとコンテクストの読み取り訓練です。アートの鑑賞とは作品自体の美だけでなく、作者の制作意図を読み取ることも楽しみの一つだと思います。
Q3:一見違う立場にある3人(オイラー、デュシャン、シャネル)のつながりについて。数学・アート・服飾が根底でどの様に関与し合っているのか、わかりやすく教えてください。
A3:数学は物理・化学・生物学等のサイエンスの基礎として捉えていただきたいとおもいます。 まず、サイエンスの革新により新技術が創造されます、これは機能としての差別化の成立です。 こののちコストダウンのための標準化が起こります。たとえばDELLコンピュータのシステム (デヴァイスの世界的分業)のような産業構造です。すると製品の機能において差はなくなります。 そこで、製品寿命を延命するために機能以外の付加価値を付与することによる差別化が必要となります。 それが、著名アーティストとのコラボやダブルネームなどに代表されるアート的要素(情感的な付加価値)です。
機能におけるファッション性(差別化と標準化)とアート的要素によるファッション性(差別化と標準化)。 ここに、サイエンス&アートのファッション性による心理的・社会的・経済的・文化的ダイナミズムが成立します。
オイラー、デュシャン、シャネルはそれぞれの分野で創造的な差別化を行い革新を起こしました。 その革命は分野制限的なものではなく、時間や地域を超えた分野横断的なマトリクスを 生成していると言えないでしょうか。皆さんとともに考えていきたいところです。
Q4:科学を始めとし、学問はファッション化されていくものなのか?もしそうなら、それはどの辺りまででくいとめられ、線引きがなされるべきなのでしょう?
A4:学問にも流行(標準化と差別化)はあるのではないでしょうか?すでに一般化した、もしくは、大方の結論の出ていることを研究することは稀だと思います。
独自の研究つまりここでも差別化が必要となるでしょう。
たとえば環境問題のための研究はどうでしょう?ロボット研究はなぜ盛んなのか?芸術学、美学においても研究の流行はあります。それは、社会的要請に応えるかたちで成立しているので積極的に評価されるべきです。
その一方で、基礎研究が大切とは言われながら、自然科学においても人文においても 直接産業と結びつかない(産学コラボの成立しない)研究のための研究というのが難しくなっているように思います。そのような(経済的価値の差別化に重点を置く)意味での学問のファッション化については、社会の中で基礎研究をどのような位置づけで考えていくべきか、 私たち個人個人の考え方が深く問われているように思います。
Q5:今回、深町氏がカフェというスタイルを通じて、参加者から意見を聞いた感想を教えてください。
A5:もっと一人ひとりの方とじっくりとお話しできる機会があるとよいと思います。
カフェ後に意見交換した際、実際に発表されたものとは違う質問をしたかったという方が多かったです。
Q6:ファッションの将来のあり方についてどの様に考えていますか?
A6:ファッション(狭義=服とその周辺)に関して、後進国が先進国になる過程で発展するのが繊維産業(低賃金労働力が必要)であることを考慮すれば、その中心は世界の中でシフトしていくことが必然です。その意味で、日本はサイエンス的(技術・機能)にもアート的(情感)にもすぐれたクリエーション(差別化)が必要とされると考えます。